ノハナショウブ(野花菖蒲)/ハナショウブ(花菖蒲)の育て方

ノハナショウブ(野花菖蒲)の基本情報

科名:アヤメ科 Iridaceae
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属名:アヤメ属(イリス属) Iris
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学名:Iris ensata
または Iris ensata var. spontanea
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異名(synonym):Iris kaempferi
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和名:ノハナショウブ(野花菖蒲)
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別名:アヤメ(菖蒲)
ただし植物種としてのアヤメ(=Iris sanguinea)とは別種
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原産:日本、朝鮮半島、中国
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開花時期:5月中旬~7月中旬
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高さ:50㎝~1m
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耐暑性:強い
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耐寒性:強い
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ノハナショウブ(野花菖蒲)の特徴

ノハナショウブ(野花菖蒲)は水辺近くの湿り気の多い土地に自生する多年草で、園芸種のハナショウブ(花菖蒲)の原種にあたる花です。

現在観賞されるハナショウブは、東北地方発祥と思われる色変わりのノハナショウブを元に江戸時代に多くの品種が生み出され、その後も育種を重ねながら生み出された栽培品種群です。

開花は6月~7月中旬(暖かい地域であれば5月中旬から)の梅雨から初夏に咲き、近縁種で開花期も近いカキツバタやアヤメと混同されることがありますが、自生環境と花姿が異なります。

完全湿性のカキツバタの花弁は中心に白~薄黄色の筋が入り、完全陸生のアヤメの花弁中心には網目模様が入るのに対して、ノハナショウブは花弁中心に黄色の筋が入ります。

耐寒性・耐暑性ともに高く日本では北海道から九州まで広い地域で自生しています。

ハナショウブとショウブの違い

「菖蒲」という言葉から思い出されるものとして、端午の節句で菖蒲湯に利用するショウブという植物があります。

2つ植物は扁平な葉などの草姿が似ており、名前も「菖蒲」なので混同してしまいそうですがハナショウブとショウブは全く別の植物です。

ハナショウブ(Iris ensata)はアヤメ科アヤメ属の植物で、ショウブ(Acorus calamus var. angustatus)はショウブ科ショウブ属の植物です。

実際のショウブの花は黄緑色で棒状の花穂に小さな花を咲かせ、あまり華やかなものではありません。

また葉を折るとショウブ科のショウブは特有の香りがあるのに対して、アヤメ科のハナショウブにはショウブような香りはありません。

アヤメ・ハナショウブ・カキツバタの違い

「何れ菖蒲か杜若(いずれアヤメかカキツバタ)」

という慣用句は「(アヤメもカキツバタも良く似ていて)どちらも美しく優劣付け難い」ことを意味しますが、アヤメ属のアヤメ、ハナショウブ、カキツバタはよく似た花で見分けが付きにくいものです。

さらに端午の節句で菖蒲湯に使うショウブも「菖蒲」ですし、アヤメの漢字は「文目、綾目」の他に「菖蒲」が充てられています。

一方でハナショウブの名所で「あやめ園」という名が付いているなどハナショウブを「アヤメ」と呼ぶこともあり非常にややこしいです。

これはアヤメやショウブの名が示す植物が時代で移り変わったことに由来するようです。

現在のショウブが古くは「アヤメ」と呼ばれており、現在のアヤメかハナショウブが「ハナアヤメ」と呼ばれていたようです。

時代が下るとアヤメは現在のアヤメやハナショウブを指すようになり、ショウブを指していた「アヤメ」は漢名の「菖蒲」が充てられ現在のようにショウブと呼ばれるようになったようです。

そのため現在でも「アヤメ」と呼ぶ場合は、広い意味でアヤメやハナショウブなどのアヤメの仲間を指す場合と、分類上の植物としてのアヤメを指す場合があります。

ではアヤメ・ハナショウブ・カキツバタの違いというと決定的なのは自生環境です。

アヤメは完全陸生で3種の中では乾いた環境で生育します。カキツバタは湿地や水辺などの水中か極めて多湿の場所で生育し、ハナショウブは陸生ですが水辺近くの陸地など多湿環境で生育します。

これらはそのまま育てるときの環境作りに直結するので、3種の違いであるとともに育てるときの基本として知っておくと失敗しにくくなります。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の管理と置き場所

ノハナショウブの自生地は水辺近くの陽当たりの良い陸地で、梅雨時期など降雨量が多い期間だけ水没することはあっても基本的に陸上で生育しています。

ハナショウブの観賞期間に庭園や鉢物のハナショウブが水没か腰水で展示されていますが、梅雨時期の水没を再現し開花中の水枯れによる花傷みを防ぐために行っているため、年中水没させると根腐れします。

そのため育てる際は陽当たり・風通し良い環境で、土は開花期を除き適度に湿度が維持できるような一般の花と近い育て方になります。

鉢植え

年間通して陽当たりの良い場所に置いて育てます。耐暑性は高いですが、鉢や根が温められる状態は嫌うため、夏場はコンクリートの上に直に置くなどは避け、木製の簀子やポットフィーターなどで地面と直に触れないようにします。

後ほど水やりの項目でも説明しますが、蕾が上がる頃から開花中は水枯れを嫌うため、開花前後は鉢を高さの1/3くらいまで水に漬け腰水の状態で管理した方が良いです。

地植え

一般の花よりはやや湿り気の多く、腐植質に富んだ土地で、陽当たりの良い場所であれば、池などの水辺がなくても庭に植えることができます。

また開花期のみ水が多く必要になりますが生育するだけならば排水の良い環境でも十分育ちます。

梅雨の降雨が少ない場合や梅雨より前に開花する地域では、開花期間のみ頻繁に水を与えることで問題なく開花させることができます。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の年間管理表
 
ノハナショウブ(野花菖蒲)の植え替え

ノハナショウブの植え替え時期は基本的に開花直後(6月~7月)が良いですが、ポットの苗や鉢植えの株を大きな鉢に植え替える場合は秋(9月末~10月上旬)に植え替えることもできます。

ハナショウブは根茎が地表下~地表際を伸びていき根茎から地中に根を伸ばします。

根茎には伸びてきた側と伸びていく側があり、新芽がある側が伸びていく方向になるので、植え替える際に気にかけて植え替えます。

裸の根茎を植える場合

根茎のみの状態で入手した場合や株分けや土替えなどの土を崩す植え替えが該当し、土を崩すような植え替えは開花直後に行います。

ノハナショウブを始めハナショウブの仲間は植えたままの状態では連作障害が起き生育が悪くなります。

鉢植えの場合は毎年植え替えるようにし、水没するような環境を除き地植えの場合でも数年経った株は別の場所に植え替えた方が良い場合があります。

植え替えは、鉢から根鉢を取り出すか地面から株を掘りあげ土を崩し、根茎と根だけの状態にします。根を切って整理し、葉も半分から1/3まで切り取って株の準備をします。

鉢の場合は新しい鉢と新しい用土を準備し、根を土中に入れつつ根茎は地表か地表直下になるように植え替えます。

葉がある側に新しい根茎が伸びていくので、葉がある側が広くなるように植え替えます。

地植えの場合は葉土や完熟堆肥を土に混ぜこんでから、鉢植えと同じく根茎が地表か地表直下になるように植え替えます。

鉢をサイズアップさせる場合

秋以降に苗で入手した株や小苗などは土を崩さずに鉢をサイズアップします。この場合は土を崩さないため開花後以外にも秋(9月末~10月上旬)も植え替えができます。

根鉢を崩さず植え替えるため、根鉢の土と近い土質のもので植え替えた方が良いです。根鉢の土と新しい土との間の通水性の差から根鉢内に水が染み込まないことがあります。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の用土の選び方
鉢植え

市販の草花用の培養土で植え替えできます。混合する場合は、赤玉土小粒:腐葉土=7:3の用土で植え替えます。

なお市販の草花用の培養土で植え替える場合は、駄温鉢などの重めの鉢を使うと良いです。

プラ鉢で植え替えた場合は用土も軽いため、腰水の際に安定せずに倒れやすくなります。

また植え替え時の元肥は加えず、新芽が出る頃から追肥としてあたえます。

庭植え

腐植質に富んだ土質に変えるため完熟の牛糞堆肥や馬糞堆肥、腐葉土などを植えこむ周囲に混ぜてから植え付けます。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の水やり
鉢植え

開花期を除き他の花と同じように鉢土の表面が乾いたら鉢下から水がでるくらいにたっぷりと水を与えます。

一方で蕾が上がる頃から開花中にかけては頻繁に水を与えるか、水に半分~1/3漬けて腰水状態で管理することで水枯れさせないようにします。

地植え

開花期以外は基本的に水やりをする必要はありません。また周囲に池などがあったり、梅雨時期に開花する地域であれば年間通して水やりは必要ありません。

一方で比較的湿度が保てない土質の場合や開花期が梅雨時期からずれているような地域、梅雨でも降雨少ない場合は蕾が上がる頃から開花が終わるまで定期的に水やりを行います。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の肥料の与え方

ノハナショウブの肥料やりは、花が豪華なハナショウブほど必須ではないですが、ハナショウブと同じく春の芽だし、開花後、秋の株の肥大の3回与えると良いです。

特に秋の追肥は株の充実と翌年の開花に影響を与えるため重要です。

鉢植え

鉢植えは基本的に毎年植え替えますが、植え替え時には元肥は施しません。

また毎年植え替えることになるので、開花後のお礼肥は植え替え後の新芽が出始めたあたりから、固形の有機肥料を鉢の縁や根茎から離れた場所に施します。

秋(9月~10月)にかけて固形の有機肥料を鉢の縁などにあたえ、春の芽吹きの頃にも同様に固形の有機肥料を与えます。

地植え

定植時に元肥は加えませんが、腐植質に富んだ土質に改良するための堆肥類を混ぜ込んでから植え付けます。

その後の株を移植するまでの数年間は、開花後のお礼肥、秋(9月~10月)頃、春の芽吹く頃に固形の有機肥料を根茎から少し離した場所に与えます。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の増やし方

ノハナショウブは「株分け」「種まき」で増やします。

株分け

株分け時期は植え替えと同じく開花後に行います。

親株の土を落とし、葉と根茎をセットで切り取り株分けします。

根茎から出ている根を切って整理し、葉も蒸散を抑えるために半分から1/3に切り取ります。

鉢植えの場合は根茎の切り口を鉢の縁に寄せ、葉の側に広くとって新しい根茎や新芽が伸びていけるようにします。

種まき

開花後にできる種を秋ごろに取り撒きするか、保管して春まきします。

種まきに使う用土は、種まき用土などの専用の土を使う必要はなく、植え替えに使う用土などに種まきできます。

ノハナショウブ(野花菖蒲)の病害虫

害虫として「ヨトウムシ」「アヤメキバガ」などが発生することがあります。

害虫

「ヨトウムシ」
ヨトウガの幼虫で日中は半地中や草陰などで休み、夕方以降から活動を始め葉や新芽を食害します。

「アヤメキバガ」
アヤメの仲間に発生する蛾の一種で、葉の芯や花芽を食害します。芯などの目立ちにくい部分を食害するため被害に気付くのが遅れやすく、排泄物や食害痕などを頼りに見つけます。

退治・治療方法

「ヨトウムシ」を捕殺するためには夜間に調べないといけないので、予め浸透移行系の殺虫粒剤を株回りに撒き、被害を抑えることができます。

「アヤメキバガ」は捕殺もできますが、食害が酷くなってからでないと気付けないことがあるため、ヨトウムシと同じく予め浸透移行系の殺虫粒剤を株回りに撒き、被害を抑えることができます。

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